DANCING FOR DREAMS /水戸バレエ研究所、そしてフィンランド国立バレエ団へ

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2008年 06月 06日

智恵子抄


北欧の更けない夜
12時になっても薄明るい
夏至まで、日は更に延び続ける


外国暮らし
否応無しに、私を活字に貪欲にさせた
やっぱり日本語が恋しくて
毎夏必ず行くのは古本屋さん
買い込んでは、海の向こうへと送る


捨てたり、あげたり
でも、やっぱり随分な量
真夜中に始めた本の整理は
ほこりをかぶっていた思い出を手に取るような
そんな作業になった


”智恵子抄”


この本を読み返していたのは何年前だったろう
高村光太郎と、智恵子の愛
光太郎の詩、智恵子の切り絵


2人の出逢いは
偶然でありながら必然であり
その愛はただひたすらに美しい
ひたむきで真摯な愛に
感嘆した


当時は、その愛の深さに心を打たれたことを思い出す
二人の愛が紡がれていくのを
二人の愛の深さが語られるのを
愛することのみを目的とした愛に惹かれた


読み返した詩集
今の私の心に触れたのは
むしろ狂気した智恵子への
光太郎の変わらぬ愛と絶望だった
浄化された愛は
哀しみの分だけ更に美しい





  山麓の二人

二つに裂けて傾く磐梯山の裏山は
険しく八月の頭上の空に目をみはり
裾野とほく靡(なび)いて波うち
芒(すすき)ぼうぼうと人をうづめる
半ば狂へる妻は草を藉(し)いて坐し
わたくしの手に重くもたれて
泣きやまぬ童女のやうに慟哭(どうこく)する
――わたしもうぢき駄目になる
意識を襲ふ宿命の鬼にさらはれて
のがれる途(みち)無き魂との別離
その不可抗の予感
――わたしもうぢき駄目になる
涙にぬれた手に山風が冷たく触れる
わたくしは黙つて妻の姿に見入る
意識の境から最後にふり返つて
わたくしに縋(すが)る
この妻をとりもどすすべが今は世に無い
わたくしの心はこの時二つに裂けて脱落し
闃(げき)として二人をつつむこの天地と一つになつた。

昭和一三・六

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  亡き人に

雀はあなたのやうに夜明けにおきて窓を叩く
枕頭(ちんとう)のグロキシニヤはあなたのやうに黙つて咲く

朝風は人のやうに私の五体をめざまし
あなたの香りは午前五時の寝部屋に涼しい

私は白いシイツをはねて腕をのばし
夏の朝日にあなたのほほゑみを迎へる

今日が何であるかをあなたはささやく
権威あるもののやうにあなたは立つ

私はあなたの子供となり
あなたは私のうら若い母となる

あなたはまだゐる其処(そこ)にゐる
あなたは万物となつて私に満ちる

私はあなたの愛に値しないと思ふけれど
あなたの愛は一切を無視して私をつつむ



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時を重ねて
再びこの本を手にするとき
自分はどう感じるのだろう
どう変わっているのだろう
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by makikirjonen | 2008-06-06 22:22 |


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